魅力的な作品に仕上げるためには2つ! 小説講座

作:有沢翔治

ブログ:http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/

プロローグ──本を「読む」──

有沢:何の本を読んでるんだい? 俊彦くん。
俊彦:ニーチェ『ツァラトゥストラはこう語った』ですよ。なんか引用するとカッコいいかなとか。あぁ、そうだ、なんか面白い本ありませんか?
有沢:そうだねぇ、これなんかどうだろう?
俊彦:かぐや姫に桃太郎!? いやいやいや、バカにしないでくださいよ。童話くらい読めますよ。子供じゃないんですから。
有沢:まぁそう言わないで、けっこういい本だと思うけどね。僕もちゃんと読めてるかどうか自信がないけど。
俊彦:はぁ、そういうもんですかぁ……。

1.本は鏡である

有沢:みんな自覚はないかもしれないけど、本は鏡なんだよ。
俊彦:何を言ってるんですか!? 本は本でしょう?
有沢:もちろん比喩として言ってるんだよ。例えば、さっき童話をバカにしたけど、ニーチェは高尚な読み物だって言ってたよね。これは俊彦くんの考えが反映されてるんだ。
俊彦:どういうことですか?
有沢:だって両方ともインクのシミだろ? つまり幼稚か高尚かなんて、結局は読者がそう考えてるだけにすぎないんだよ。
俊彦:まぁそうですけど……ってあれ? その考えも……
有沢:そうだよ。これも僕の考えが反映されたものにすぎない。だから本は読者の考えを映し出してるんだよ。まるで鏡のようにね。

1-1.おおもとの話はどうだったのか?

有沢:ところでこのかぐや姫だけど、おおもとの文はこんな感じなんだ。
「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。名をば、さぬきの造となむ言ひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。」
俊彦:え、これ日本語、ですか?
有沢:もちろん。でも僕は古文の授業を始めるつもりはないから安心していいよ。
俊彦:よかった……。
有沢:でも、そもそもどういう話だったのか? 本当に伝えたいことは何だったのか? これだけは考えて読んで欲しい。読んでいけば解ると思うけど、かぐや姫はプロポーズした貴族たちに無理難題を吹っ掛けるんだ。
俊彦:へぇ……。そんな話だったんですね……。
有沢:かなり話が今とは違うでしょ。大事なのはできる限りおおもとの文章を探る、ってこと。これは何も「物語」に限った話じゃなくて、ネット、解説書など全てにおいて言えるんだ。公式サイトを調べたりね。

1-2.本は作者の鏡である

俊彦:じゃあ、例えば古典を勉強してかぐや姫の原文を読めば、平安時代の宮廷生活は解るんですね!
有沢:そうとは限らない。おおもとの文章も「ありのまま」を映してるわけじゃないからね。
俊彦:何も竹の中から女の子が出てくるなんて信じてませんよ。
有沢:もちろん、その辺りは誰が見てもフィクション。でも考え方で「真実」は変わるんだよ。
俊彦:どういうことですか?
有沢:例えば貴族たちはかぐや姫に無理難題を吹っ掛けられて、失敗するよね。しかも全員。
俊彦:そうですね。
有沢:もし作者が貴族に好意的な見方をしていたら、こう書くと思う?
俊彦:しませんね。きっと月の軍隊を追い払って……、という結末になるんじゃないでしょうか。
有沢:そうだね。つまり作者は貴族階級に余り好意的な印象を持っていないということになる。
俊彦:そうすると……農民ですかね?
有沢:それはちょっと考えにくい、かな。平安時代だとして、文字の読み書きができたり、和歌を読めたりする人って貴族か僧侶かくらいだからね。
俊彦:そうすると政権争いに敗れた貴族ですかね。
有沢:うん、そうだね。じゃあ聞くけど、政権争いに敗れた貴族だとして、果たして私怨抜きで貴族を書けたと思う?
俊彦:無理でしょうね。
有沢:僕が真実とは限らないと言ったのはそこなんだ。このかぐや姫の物語はせいぜい真実の一部分を語っているにすぎないんだよ。

1-3.「真実」を見極めるたった一つの方法!

俊彦:じゃあ、古文の教科書を読めば確実ですよね?
有沢:いや、結局は同じことだよ。
俊彦:どういうことですか
有沢:教科書は誰が作ってるか知ってる?
俊彦:出版社、ですか?
有沢:そうだけど文部科学省が認定してるんだ。つまり教育の方針とか、国の方針とかが反映されてる。つまり<誰か>が書いている以上、真実にはたどり着けないんだよ。立場で書けないこともあるから。
俊彦:いやいや、そんなこと言っても誰かが書かなきゃそもそも始まらないじゃないですか。
有沢:そうだよ。
俊彦:はぁ……。何を読めば真実が解るんです? 作者の日記とかですか?
有沢:いや、それも怪しい。それは作者の思い違い、記憶違い、勘違いもあるからね。
俊彦:真実は解らないってことですか。
有沢:そうだね。もちろん「物語」だけじゃない。うわさ話から新聞記事まで全ての「言葉」でも言えるんだ。
俊彦:じゃあどうすればいいんですか。
有沢:方法はただ一つ。作者が言ってるから間違いない、と思わないこと。もちろん公式サイトに載ってるから、新聞に書いてあったから、ネットに書いてあったから……という発想も危険だね。
むしろいろんな言葉を突き合わせて、じっくり考えながら読んでいくことで真実に近付けるんじゃないのかな?
俊彦:新聞にも主観とかありますからね。
有沢:そうだね。例えば一つの事件を各新聞社がどんな言葉で書いてるか、とか読み比べるとか。
俊彦:ネットのニュースだけ見てました……。すみません……。
有沢:いや、忙しい場合はそれで構わないんだけどね。僕が言いたかったのは全ての発言は主観が入ってるってこと。「おはよう」っていう挨拶一つにも。
俊彦:極論すぎません?
有沢:例えば、仲が悪い人には挨拶したくないんじゃない?
俊彦:確かにイヤな上司には挨拶したくありませんけど。

1-4.無視も「言葉」である

有沢:でもまぁ、挨拶するかどうかは俊彦くん次第だけどね。つまり挨拶するってことは「あなたに敵意はありません」って思いを伝えたいわけだ。
俊彦:上司には敵意どころか殺意を感じてますけどね!
有沢:でも少なくとも表面上は、敵意は消してるんじゃない?
俊彦:まぁ後々面倒ですからねぇ
有沢:否定はしないけど。でも、そういうときは「おはよう」じゃなくて「おはようございます」って言うんじゃない?
俊彦:まぁ、いくら嫌いって言っても目上ですからね。
有沢:目上の人だからって敬語を使うとは限らないんじゃない?
俊彦:そうですかね?
有沢:例えば先輩と仲良くなってきた場合、段々とくだけてくるんじゃない?
俊彦:そうですね。
有沢:逆に後輩でも仲が悪かったら敬語になるんじゃない? つまり、敬語を使うかは仲がいいかどうかで決まるんだよ。
俊彦:僕なら無視しますけどね! 嫌いな相手は!
有沢:それも一つの「言葉」だよ。
俊彦:どういうことですか?
有沢:聞くけど、通行人に挨拶しないのはどうして?
俊彦:関係ない人だからでしょう?
有沢:そう、無視することは「あなたと僕は関係ありません」って言うメッセージなんだ。
俊彦:あぁ、だから好きな子にメールを送っても返事がなかったんですね……。で、翌日、声を掛けたら無視されたんですけど、納得が行きました!
有沢:……まぁそれについてはノーコメントだけど、主観は消し去れないんだよ。どんなに作者が気を付けてても、相手への敵意・好意が言葉の端々から読み取れるから。
俊彦:なんか聖人君子でいなきゃいけないような気がしたんですけど。
有沢:別にそういうつもりはないよ。誰にでも嫌いな人はいるからね。
俊彦:ですよねぇ。
有沢:でも相手の言葉は鏡だって言ったのは、そこなんだよ。どんなに本当のことでも嫌いな人に言われると発言まで憎く感じるよね。逆に相手を心の底から尊敬してたらデタラメでも「本当」のことのように感じちゃう。
俊彦:そうですね。
有沢:結局、みんな解釈したいように読んでるんだ。だからせめて「勝手な解釈じゃないのか」「もしかしたら別の意見があるかもしれない」って疑い続けることでしか真実に近付けないんじゃないのかな。

2.オリジナリティとは自己省察である

俊彦:そりゃ確かにそうかもしれませんけど、魅力的な文章作りとは関係ないじゃないですか。
有沢:魅力的な作品っていう言葉が曖昧だからオリジナリティとは何か考えてみようか。
俊彦:独自性ですよね?
有沢:まぁそうなんだけどね。独自性については色んな意見があるだろうけど、結局は自己省察じゃないのかなぁ?
俊彦:物語や登場人物の組み合わせじゃないんですか?
有沢:確かに表面上はそうだよ。でもその組み合わせはランダムに選んでるわけじゃない。サイコロとかコインの裏表とかなら完全にランダムだろうけど、作者が選んでるでしょ? そこには作者の思いが込められてるんじゃないのかな?
俊彦:思い、ですか。でもそんなに深く考えてない人もいるんじゃないですか?
有沢:もちろん、意識しているのは氷山の一角にすぎないよ。
俊彦:どういうことです?
有沢:本当に些細なことでイヤな出来事を思い出したりしない?
俊彦:こないだミスの報告を上司の顔見るまで忘れてましたよ!
有沢:……ミスしたことを意識したかったから、それで忘れた。でもミスといえば上司っていう風に連想して、上司の顔を見ると思い出したんだよ。
俊彦:まぁしょっちゅう怒られてますからね。
有沢:……まぁ、それについてはノーコメントなんだけどね。組み合わせにも作者の思いが反映されてるってことだよ。
例えば:
・仕事のことを思い出したくない余り学生を主人公にする
・現実から目を背ける余り異世界での物語にする
俊彦:別にいいじゃないですか。現実逃避しても。
有沢:もちろん否定はしないよ。でも現実逃避していることにすら気が付かないのは問題だ。この間、自己省察が大事だって言ったよね。覚えてる?
俊彦:ええ、どこかで聞いたなと思ってました。
有沢:大事なのでもう一回言うけれど、自己省察はとても大事。小説を「読む」上でもね

2-1.桃太郎は書き換えられていた!

有沢:さっきも言ったけど、僕たちは言葉を自分勝手に解釈しながら読んでいる。時にはそれこそ物語自身を書き換えながら。例えば桃太郎がいい例だね。
俊彦:桃太郎? あの桃太郎ですか? 鬼ヶ島の?
有沢:そう、これはかぐや姫よりもある意味では難しい。
・かぐや姫とは違って、おおもとの物語が文字として残ってない
・明治、二箇所も物語が大きく書き換えられた
からね。
俊彦:へぇ……。同じ童話だから難しさは一緒だと思ってました。江戸にはどういう話が伝わってるんです?
有沢:桃を食べた二人は若返って、子供ができる身体になりました。でもこれじゃ子供には説明しにくいでしょ?
俊彦:それで桃から産まれた、と。
有沢:そういうこと。もう一つ、動物たちとの関係が大きく書き換えられた。イヌ、キジ、サルたちは初め、桃太郎と対等だったんだけど家来になった。
俊彦:大して変わってないような。
有沢:これは韓国、朝鮮半島、フィリピンを家来にするという明治政府の意向が表れているんだ。他にも戦時中には勇ましい物語に書き換えられたり、今は話し合いで解決したりとかしてるけど、これも時代を反映してるよね。
俊彦:そうですね。でも自己省察と関係あります?
有沢:もちろん。じゃあ聞くけど、桃太郎が書き換えられたって話を聞いてどう思った?
俊彦:え? 世相を反映してるなぁとか、でも暴力反対はどうなんだろう、とか思いましたけど。
有沢:暴力反対はどうなんだろうってどういう意味?
俊彦:だって子供って暴力的なものでしょう?
有沢:どうしてそう思うの?
俊彦:だって子供って虫とか殺しますし、それを無理やり押さえつけても、どうかと思うんですよねぇ。結局はどこかで押さえつけてたものがズドンと爆発するっていうか。上手くは言えませんけど。
有沢:つまり子供に悪影響が出るかもしれないと
俊彦:別にそこまでは言いませんけどね。虫を殺して祖母ちゃんに怒られたことあったなぁと思い出しまして。
有沢:つまり今、俊彦くんは桃太郎から、子供の頃を思い出した、ということになるね。そしてそこから、子供のしつけに行き着いたわけだ。
俊彦:はぁ……そんなに大袈裟なものじゃないですけどねぇ。でもそうかもしれませんね。
有沢:だとしたら育児の本を読んでみたらどうだろう。少なくとも僕の読み方はそうだけど。

2-2.何を読むか

俊彦:じゃあ、ルソー『エミール』とピアジェにします。
有沢:確かに教育論や発達心理学の本としては有名だけど、どうしてその本にするの?
俊彦:……カッコいいから、です。すみません!
有沢:そう、まぁ否定はしないし僕もそういうところはあるからね
俊彦:ですよねぇ。ですよねぇ!
有沢:でもその見栄を自覚してるのとしてないのとじゃ雲泥の差だよ。その上で何を読むか選んでね。
・解説書を買う性格なのか、原書に挑戦する性格なのか。
・その性格はどこからきてるのか?
・何の本を読まずに避けているのか?
・どうしてか?
・もしかしたら勝手に性格を解釈してるだけじゃないのか?
こういった一つ一つの疑問が物語のオリジナリティを生み出してるんじゃないのかな?
俊彦:そういうもんですかねぇ。
有沢:さっき組み合わせがオリジナリティだって言ってたよね。同じ桃太郎とかぐや姫の物語を組み合わせても、思い浮かぶ話は人それぞれでしょ。ならどうしてその物語を思い浮かべたか分析すれば、書く目的がはっきりするんじゃないのかな。

2-3.どうして「桃」なのか

有沢:もう一つ注目して欲しいのは、どうして「桃」から生まれたかだよ。
俊彦:話がそうなっているからでしょう?
有沢:もちろん、話の内容を変えちゃいけない。でも桃だろうと栗だろうと、ストーリーには大差がないわけだ。つまりあえて桃を使ったということになる。そこには語り手の価値観が現れてるんじゃないのかな?
俊彦:作者の好物、とかですか?
有沢:もちろん、そうかもしれない。でも桃源郷って言葉を聞いたことがある?
俊彦:何ですか? それ。
有沢:中国に伝わる理想郷の伝説なんだけど、そこには桃の花がたくさん咲いていた、という話なんだ。他にもひな祭りを桃の節句って言うよね。ひな祭りだって中国から伝わった風習なんだし。
俊彦:そうなんですか。つまり桃太郎のルーツは中国にあると。
有沢:かもしれないね。でも大事なのはストーリーに直接、影響がなくても言葉に意味を見出すってことなんだ。そして、読者の心を多かれ少なかれ表している。
俊彦:どういうことですか?
有沢:作者の好物だと思ったとき、どんなことを考えてた?
俊彦:腹が減ったなぁとか、そんなことを。
有沢:つまり何か食べたかったから、作者の好物だって思ったことにならない?
俊彦:まぁそうですかねぇ。

2-4.語ることは語らないこと?

有沢:もう一つ大事なのは、語ることは同時に語らないことでもあるんだ。
俊彦:全く意味が解りません。
有沢:例えば、どんな桃かどんな川か、どんなお婆さんか語ってないでしょ? できるだけ具体的に書こうとしたら言葉で埋め尽くさなければいけない。例えばこんな風に
「紀元前2432年グレゴリオ暦3月15日8時17分53秒17″15だった。七十歳六ヶ月と五日のお婆さんが云々」。
これでもまだ足らないんだ。お婆さんの容姿、皺の数、どこに皺があるか、髪の色は何色か……全てを書かないと真の意味で「語ったこと」にはならない。
俊彦:そんなことできるんですか?
有沢:できないよ。だから、重要なところのみ語るんだ
俊彦:年齢なんてどうでもいいですからね。
有沢:でもそれは語り手がそう思ってるだけでしょ。お婆さんの容姿は極端な例だけど、退治された鬼の言い分だってあるはずだよね。でも書いてないってことは語り手がわざと削ってるんだ。
俊彦:じゃあ鬼の言い分も書けばいいんですね。
有沢:鬼だって一人ひとりの思いが違うはず。例えばやる気のない鬼だっているだろうし、桃太郎を殺したいほど憎んでる鬼だっているよね。それにキジ、サル、トリの言い分は? お爺さんの言い分は?
俊彦:そんなものまで書いたら膨大になりません?
有沢:それどころか不可能だよ。
俊彦:ですよねぇ。
有沢:つまり全ての物語には必ず語られなかった部分があるんだ。桃太郎やかぐや姫とかの童話はもちろん、うわさ話や報道、伝記……全て語り手が編集したものを読んでる。
つまりどんなに公平な言い分に思えても、全ての言葉には語り手の価値観が入るんだ。
俊彦:まあ、当たり前ですね。
有沢:そうなんだけど、じゃあそこまで考えながら新聞記事を読んでる? 読むってことはそういうことなんだ。
俊彦:読んでません……

2-5.語りには限界がある

有沢:別にいいけど。じゃあどうして、ありのままを言葉で語ることができないんだろうね。
俊彦:え? だってさっき有沢さんが言ったじゃないですか。すごい文章量になるって。
有沢:なんですごい文章量になるかってことは?
俊彦:え、そりゃあ……
有沢:例えば「川から大きな桃が流れてきました」という文章だけを読んで想像する風景はみんな違うでしょ? 例えば、小川を想像する人もいれば、大河を想像する人もいるかもしれない。
俊彦:そうですね
有沢:つまり共有できるものと共有できないものがある:
・大まかなことは共有できる……川は「水が流れる場所」、桃は「果物」
・細部は共有できない……川幅、川の流れはどのくらいか
細部は言葉で伝えきれないけれど、言葉を使わなきゃ伝えられない。だから人によってイメージは違うよね。でも僕たちはどこかで決断しなきゃいけない。
俊彦:決断、ですか。
有沢:そう。さっきも言ったけど、どんなに誠実な気持ちで書いてもとしても読み手の気持ち次第で歪められちゃう。
俊彦:そんなぁ。
有沢:でも言葉を使わなきゃ自分の思いを伝えることができない。
俊彦:じゃあどうしたらいいんですか!
有沢:だからこそ決断するんだよ。もしかしたら批判されるかもしれない、もしかしたら誤解を与えるかもしれないって恐れながらも。文責ってそういうことなんじゃないのかな?
俊彦:いやいや、誤解するほうが悪いんでしょう。余りに理不尽じゃありませんか?

3.何のために伝えるか

有沢:まぁ、どんなに伝えても誤解する人はいるからねぇ。でも、この「伝える」とは何だろうかって考えるために、かぐや姫と桃太郎を選んだんだよ。
俊彦:どういうことですか?
有沢:最低限のストーリーは伝わるように書かれてるからさ。
俊彦:当たり前じゃないですか。子供向けなんですから。
有沢:いや、誰にでも伝わるように書くのって難しいんだよ。例えば僕はこんなこと気を付けているつもり。

3-1.できるだけ日常の言葉を使う。

有沢:例えばかぐや姫の原文「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり」と「昔々、竹取の翁という人がいた」という文を比べた時にどちらが頭に入りやすい?
俊彦:「昔々、竹取の翁という人がいた」のほうですね。
有沢:そうだね。どうしてだと思う?
俊彦:だって普段使っていませんよね? 古語なんて。
有沢:つまり馴染みがない、と。
俊彦:そうです。
有沢:つまりこんな点が問題となってくる
1.何が言いたいか、一回読んだだけで伝わるか?
2.解りにくいとしたら、それはどうしてか?
3.解りにくい、と言われてもでも伝えたいのか。
物語は知識の自慢の場でもなければ、難しい語彙の自慢でもないんだよ。もっと他に解りやすい表現がないか探すようにしてる。

3-2.一つの文が複数の意味にならないか?

俊彦:例えば「ここではきものをぬいでください」「かねをくれたのむ」のような文章ですね。
有沢:まぁ、その場合はこんな風に漢字を使えばいいけどね:
・「ここで履物を脱いでください」/「ここでは着物を脱いでください」
・「金をくれ。頼む」/「金をくれた。飲む」
俊彦:なるほど、そうですね。他にはどんな例があるんです?
有沢:例えばこんな言い方が二重の意味に取れる:
・彼は大丈夫だと言った(「大丈夫だと言った」のは誰なのか?)
・私は部長と課長に質問をした(「部長に質問した」のは誰なのか?)
・私は泣きながら走る弟を追いかけた(「泣きながら走る」のは誰なのか?)
・できたら声を掛けてください(「できたら」は「できあがったら」の意味なのか? 「なるべく」という意味なのか?)
・難しい哲学書の解説を読んだ(「難しい」のは「哲学書」か、「哲学書の解説」なのか?)
・先生と生徒三人が風邪で休んでいる(「休んでいる」人に先生は含めるのか?)
・彼は十日も休むつもりらしい(「十日」は「十日間」という意味か? 日付か?)
特に「の」は要注意。「夏目漱石の本」っていう言い回しは三つの意味に取れる
俊彦:え? そうなんですか?
有沢:うん。
1.夏目漱石が書いた本
2.夏目漱石について書いた本
3.夏目漱石が持っていた本。
俊彦:確かに……、でも文脈で判断できません?
有沢:確かにそうだよ。でも、もっと文章を解りやすくできないか? これを考えるのが作者の役目なんじゃないのかな。

3-3.比喩は使いよう

俊彦:比喩は使いよう? どういうことですか?
有沢:さっき「本は鏡だ」と言ったら戸惑ったでしょ? つまり比喩を理解するのには、次のステップを踏むことになる。
1.本は鏡ではない。
2.だからこれは比喩である。
3.二つ共通点は何か?
実を言うと、使い方を間違うと比喩は読み手をすごく疲れさせるんだ。特に共通点が分からないとね。
俊彦:比喩は使わないほうがいい、ということですね。
有沢:いや、そうとは限らないよ。逆に使い方次第では解りやすくもできるからね。
俊彦:例えばどんな比喩です?
有沢:次の文章は同じ意味なんだけど、どっちが解りやすい?
・「平安時代の武士は民間警備会社のようなものだ」、
・「平安時代の武士は私兵である」
俊彦:「平安時代の武士は民間警備会社のようなものだ」の方が確かに解りやすいですね。
「平安時代の武士は私兵である」って書かれても、教科書に出てきそうで頭が痛くなります。そもそも私兵って何ですか? なんとなくイメージできるんですけどね。
有沢:平安時代の武士も僕たちは会ったことがないよね? それに私兵なんて普段は余り使わない言葉でしょ? だからイメージが湧きにくいんだ。でも身近な民間警備会社に置き換えると解りやすくなるよね。
俊彦:つまり、解りやすく説明するための比喩はいい、と。
有沢:そうだね。読んでて疲れるような比喩は使わないほうがいいって。何回でも言うようだけど言葉は伝えるためにあるんだから。

3-4.余分なことは書かない

有沢:さっき、語り手はストーリーを編集するって言ったよね。実はこのおかげで内容が解りやすくなるんだ。
俊彦:どういうことでしょうか?
有沢:「紀元前2432年グレゴリオ暦3月15日8時17分53秒17″15だった。七十歳六ヶ月のお婆さんが……」この文章は解りにくいよね。
俊彦:そんなに細かく書かなくてもいいでしょ。
有沢:つまり言葉足らずは伝わらないけど、多すぎても伝わらなくなるんだ。どこが重要なのかが読み手には伝わらないからね。

3-5.具体的な話をする

有沢:できるだけ具体的な話をしないとイメージが湧かない。
俊彦:根性がない、と上司は僕に言ってますけど、何も伝わりません! それと同じですよね!
有沢:……精神論だけでは何も伝わらないからねぇ。多分、これは友達と食事に行くときでも一緒じゃないかな
俊彦:どういうことですか?
有沢:例えばどちらが状況をイメージしやすい?:
1.いつか、なにか食べに行かない?
2.今度の日曜日に、名古屋へ味噌カツを食べに行かない?
俊彦:「今度の日曜日に、名古屋へ味噌カツを食べに行かない?」ですね
有沢:ね? こういう風にできるだけ具体的な文章を書くと、イメージが湧きやすいよ。そして伝わりやすい。
カフェのメニューでも「香ばしい唐揚げ」よりも「醤油ダレに漬け込んだ、ごま油ベースの唐揚げ」って書いたほうが……
俊彦:美味しそうですね! 今度、なんか食べに行きません?
有沢:はぁ……。まぁいいけど。
俊彦:なんで溜息ついてるんです?

3-6.読み手を疲れさせない

有沢:いろいろ書いたけど、読み手を疲れさせるような文章は悪文だよ。僕も人のことは言えないけど、読んでいただくという気持ちがないと独りよがりになるからねぇ。
俊彦:読んでいただく、ですか……。
有沢:だって、その読んでるってことは相手の時間を奪ってるからね。そしてその時間はゲームもできたはずだし、もっと他の人ともメールができたはずだよね。
俊彦:どうせ僕の作品なんて……
有沢:そう卑屈にならなくてもいいんだけどね。

エピローグ──誠意と熱意──

有沢:だから伝えようと考え続けなければいけないんだよ。例えばこんな風に:
・「もしかしたら自分の言葉は伝わっていないんじゃないか」
・「どうしたらより正確に伝わるんだろう」
・「もしかしたら誤解を与えているんじゃないのか」
俊彦:特に書き言葉は声と違って、すぐに答えが返ってきませんからねぇ。もしかしたらかぐや姫みたいに作者が死んじゃってたら……
有沢:永遠に答えは得られないね。だからこそ、本当の意味で「読む」ことをしなきゃいけないんだ。
・「物語はどんな立場で語られているのか」
・「もしかしたら独りよがりな解釈じゃないのか」
・「どうしてその解釈をしたのか。そのもとになった経験は何なのか」
俊彦:なるほど……

4.ブックガイド

俊彦:なんか読んでもらう、というよりは格好を付けたがっていたような気がします。
有沢:まぁ、それは誰にでもあるよ。
俊彦:いや、学歴もないし……、読みやすい小説なんかありませんか?
有沢:そうだねぇ。
高田敏子『詩の世界』(ポプラ社)

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イチ押しはこれ。小説じゃないけど、詩についての本。僕は「真実」へいかに近付くかを考えたけど、この本は感じたままをいかに表すかを教えてくれるよ。
星新一『ボッコちゃん』(新潮社)

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たった数ページの超短編がたくさん収められてる。最後の一行でどんでん返しが待ってるよ。
赤川次郎『幽霊列車』(文藝春秋社)

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赤川次郎は映画の影響を受けてるからか、文章が読みやすい。風景描写はあまり説明せずに一、二文であとは台詞だよ。
俊彦:ありがとうございます。
有沢:いろいろ書いたけどこの二点が大事なんじゃないのかな。
1.理解できないものでも理解しようとする誠意
2.完全には伝わらないけど、少しでも伝えようとする熱意
この二点さえ押さえれば、魅力的な言葉になると僕は信じてる。

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